えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第5回

 前原市にある雷山の標高は九五五・四五メートル。雷山千如寺はその中腹にある。歴史は奈良時代にまで遡ると言われている。おそらく九州で最も古い寺なのではないだろうか?考えてみればそんなすごいお寺の住職と懇意にさせてもらっているというのはすごいことなのかもしれない。俺が初めてここを訪れてからもう何年になるだろう?今では住職のご家族やお弟子さんたちともすっかり仲良くなってしまった。俺が行くといつも暖かく迎えてくれた。
 車を降りて三門をくぐるとあの大楓の貫禄ある姿が視界に飛び込んできた。その大きさに遠田は感動している様子だった。
 「これ、紅葉したらほんとにすごいでしょうね」
 「そらすごいよ。みんな写真撮りに来るよ。九州の名所として何回もカレンダーになった有名な楓よ」
 楽しそうにしている遠田の面倒は高尾に見てもらうことにして、俺は先に住職を探した。売店の横の入口から声をかけると奥さんが出て来られた。
 「あ、内田さん、どうもいつもお世話になります。住職は今、上の観音堂にいますので呼んでまいります。あがってお待ち下さい」
 「すいません」
 俺はまだ外にいる高尾と遠田を呼んだ。奥さんが俺たち三人を奥の座敷に案内した後、住職を呼びに行った。
 俺たちが通された座敷からは広縁を隔てて心字庭園が見渡せた。今も覚えているが俺が二回目にここを訪れた時に住職がお昼を御馳走してくれて、俺はこの座敷で池を見ながら精進料理を頂いた。まるで高級料亭のような待遇に感動したものだった。
 「ほら、これが心字庭園ばい。こことここが点々たい。こんな感じで心みたいやろ?」
 また高尾が説明していた。重宝するやつだ。
 「いいですねー!私今かなり感激しています」
 高尾は遠田が喜ぶのが自分の手柄のようににこやかに微笑んでいた。こいつ多分遠田のこと気に入ったなと俺は感じた。自分の気持ちを隠しておくなんてできないやつだからすぐ態度に現れていた。
 しばらくして北村住職が座敷に入って来た。
 「やぁ内田さん、ご無沙汰してます。いやいや、なんか慌しくて申し訳ないです」
 「すいません、今回はお電話でお話した件でいろいろとお世話になります」
 「いえいえ。うちのお寺を特集して頂けるとは光栄です。是非よろしくお願いします」
 「こちらこそよろしくお願いします。和尚さん、彼がカメラマンの高尾です。彼女はアシスタントの遠田です」
 二人は頭を下げた。
 「住職の北村です。内田さんにはいつもお世話になってます」
 北村住職は気さくな方でいつも優しさにあふれる温和な笑顔を絶やすことがなかった。宗教の世界において己を鍛える人々はみなこういうふうに優しくなれるのだろうか?きっと多くの人が住職の優しさに救われたことだろうと思った。すがってくる人と一緒に苦しむこと、それは自分の仕事の中で最も重要な部分であるといつか言われていた。住職は俺の悲しみも一緒に背負ってくれた。この人がいなければ俺は多分もっと荒れていたことだろう。住職は俺にとってまさに最後にすがるべき砦だった。
 「街はまだ暑いですけど、ここは涼しいですね。やっぱりだいぶ高いからですかね?」
 高尾が庭からくる涼しい風を感じて言った。
 「平地からするとだいぶ高い位置にありますから、三度くらいは違うでしょうね」
 「いいなぁ。ここに避暑に来たいですよ」
 「どうぞどうぞ。蚊もあんまりいませんし、快適ですよ。ただし冬はつらいですけどね。ここだけ雪国になりますよ。はははは」
 遠田は好奇心に満ち溢れたまなざしで床の間のかけじくやら、襖絵を眺めまわしていた。そんな彼女に気付いた住職が言った。
 「遠田さんはここは初めてですか?」
 「はい。もうさっきからすごい感激してます」
 「上の観音堂は行かれました?」
 「いいえ、まだです」
 「それなら後でご案内しましょう」
 「ありがとうございます」
 高尾が横から割り込んだ・
 「でかくてびっくりするよ」
 俺は早く住職との打ち合わせに入りたかったので、今回の企画書を住職に渡して、「じゃぁ早速ですが打ち合わせに入っていいですか?」と言った。
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