えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

千の灯火(ともしび) 第4回

 せつないとはそもそもどういう意味だろう?辞書で調べてみた。「寂しさ、悲しさ、恋しさで胸がしめつけられる気持ち」「深く心を寄せている」「苦しい」・・・なるほど、まさに絶妙な表現なんだ。俺の状態を表現するのにこれ以上の言葉はなかった。
 その日は高尾と遠田を連れて「雷山千如寺」へ挨拶に行く予定になっていた。アポイントはとってある。三人で会社の車で行くことになっていた。高尾が遅刻しないか心配だった。
 遠田が入社して二日が経過したが、彼女は俺のプライベートに関することを一切質問しなかった。おそらく課長に俺の事情を聞いたんだろう。新人にまで気を使わせて申し訳ない気がした。
 会社への道のり、通勤の車が多い三号線を避けて、都市高速道路の下を通る道をいつも選ぶ。こっちだと十分は短縮できた。福岡サンパレスの前に出るとそこから長浜通りに入り、大手門へ。もう目を閉じていても辿り着けそうなくらい何度も通った道。時々千秋が「天神まで乗せて」と助手席に座った。彼女が勤めていた旅行代理店は博多駅の近くにあった。いつもJRで出勤していたが天気が悪い日は助手席にいた。俺の車の助手席。そこは常に彼女の予約席。そうだ、まだ長い髪の毛落ちてないかな。あるとすれば彼女しか考えられない。その髪の毛のDNAで彼女をクローン再生するか・・・。
 下らない思考を繰り返す間に会社に着いた。高尾と遠田は準備ができていたのですぐに会社の車で出発した。高尾が後部座席に、遠田が助手席に座った。
 「千如寺までどれくらいかかりますか?」
 遠田が質問して来て俺は我にかえった。
 「え?あぁ。そうねぇ、都市高速で行くけん三十分くらいかな」
 「そんなに近いんですか?」
 「いや、近くないけど都市高速と有料道路を乗り継いだら、すぐ近くまで行けると。普通の道で行ったら結構かかるよ」
 「ふぅん」
 高尾は後部座席から顔を出して会話に入って来た。
 「遠田さん、初めて行くと?」
 「はい。私雷山てすごい遠いイメージがあったんで」
 「みんなそう言うよね。今は高速があるけん、逆に高速がない福岡市内を移動するよりよっぽど近いよ」
 「高尾は何回くらい行ったことあると?」
 俺はルームミラーに写る高尾に聞いた。
 「何回行ったかいな?もうかなり行ったよ。大楓が紅葉する頃は毎年行くしね。あれが真っ赤になる時はすごかよ。それとか新緑の頃もいいしね。あとは池があるんやけどそこもいいし」
 「心字庭園やろ?」
 「そうそう」
 「なんですか?しんじって?」
 「心っていう字で心字よ。池の形がね、心っていう形になっとると」
 「へー、すごいですね」
 遠田の反応が嬉しいのか高尾がまた調子に乗り始めた。
 「その池をぼぉーっと眺めるのもいいよ。あの場所は多分、マイナスイオンでまくりやろうね。あとはずーっと階段上っていった所にある観音堂に、でっかい菩薩像があるよ。そりゃすごいよ。初めて見た時はたまげたね。えーと、内田、なんていう仏像やった?」
 「十一面千手千眼観世音菩薩」
 「そうそう。それ。お前そういうのよぉ覚えるよね。遠田さんね、歴史と芸術に関しては内田に聞いたらいいよ。ほんと詳しいよ」
 「そうなんですか」
 遠田が俺の方をちらっと見たが俺は肩をすくめただけで何も言わなかった。
 「あと、ほら、あれなんやった?大きな観音像の裏手にいろんな仏像がずらっと並んでる・・・」
 「眷属二十八部衆」
 「ほらね?すぐ出てくるやろ?内田のことやけん、あの二十八の仏像の名前全部言えるっちゃない?」
 「・・・」
 「絶対言えるはず。言うのが面倒くさいけん言わんのやろ?」
 高尾はいつもこんな調子でしゃべりっぱなしだった。そのおかげで俺が遠田に話しかけないで済むから助かるとその時は思った。
スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。