えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第3回

 詳細な打ち合わせに入ろうとしたところで、威勢のいい挨拶とともに会議室のドアが開いた。カメラマンの高尾だった。高尾は大学からの友人で一緒にこの会社に入った。大学の頃から写真の腕はあったから入社してからすぐに認められて、今では社内で彼の右に出るものはいない。
 「おぉ、おはよう。ちょうど今から打ち合わせ始めるとこやけん」
 課長は高尾に座るように椅子を指した。
 「千如寺でしょ?撮りがいがありますねぇ。内田も腕がなるやろう?あの寺はネタには困らんけんね」
 「高尾も千如寺知っとったん?」
 俺は意外な感じがした。
 「知っとるくさ。紅葉がきれいかろうが?何回か写真撮りに行ったよ」
 「おぉそうか、内田も高尾も行ったことあるなら話が早いな。今回の企画はちょっと気合入れてやってくれよ。なんせ一年がかりやけん」
 課長はコピーした書類を俺と高尾に渡した。
 「五回のシリーズの内容だけ指示しとくけん、後の細かいところは内田と高尾と新人さんで決めてくれ」
 「新人さん?中途採用ですか?」
 高尾も俺と同じことを思ったらしい。
 「そう。遠田さんていうけん。二十八歳独身。長身で美人ばい」
 「女性ですか?ほぉ」
 嬉しそうな高尾。こいつは学生の頃からわかりやすいやつだった。
 「もうすぐ来るけど、それはいいとして内容やけど、五回っていうのは、千如寺に関する『歴史』『文化財』『行事』『自然』それとまとめとして『総括』ね。『総括』は最初に持ってきて序章みたいな感じにしてもいいし、最後に持ってきてまとめにしてもいいし、そのへんは任せるけん」
 「わかりました」
 俺は課長の話を聞きながら既に構想が頭の中で広がっていった。
 「そういう内容で進めてもらえばいいけん。後は内田の好きなようにしてくれ。高尾が必要な時はどんどん使ってくれ」
 「俺も腕がなるばい。いっちょいい仕事しましょうかね」
 高尾も張り切っている様子だった。
 「そしたら俺は別の会議があるけん、行くよ。なんか質問ない?」
 俺と高尾は首を振った。
 「OK。そしたら頼むね」
 そう言って課長が会議室を出ようとしたところに、開いたドアから長身の女性が入って来た。
 「おはようございます」
 「お、来たね。この子が遠田さんやけん。よろしくね。こっちがライターの内田。こっちがカメラマンの高尾」
 「よろしくお願いします」
 かわいくお辞儀する彼女を見て高尾はすぐににこやかに反応した。
 「こちらこそよろしく。今から内田と打ち合わせするけん、座らんね。へー、課長が美人て言ったけどその通りやね。中途で入ったと?」
 「そうです。前職が八月末までの出勤で」
 「何しよったと?聞いていいとかいなこんなこと?」
 「別にいいですよ。キャビン・アテンダントです」
 「キャビン?」
 「こいつにはスチュワーデスて言わんと通じらんよ」
 俺が横槍を入れると高尾は不思議そうな顔をして言った。
 「そうなん?スッチーてキャビンなんとかて言うと?へー知らんかった」
 彼女は俺と高尾のやりとりを微笑みながら眺めていた。課長はその様子を確かめてから静かに会議室から出て行った。
 高尾は彼女に興味津々らしく、質問攻めが始まった。
 「どうりでスタイルいいもんね。でもなんでこの業界に入ったと?給料はむこうのほうがよかろうもん」
 「私、本当はライターになりたかったんです。学生の頃、出版社でバイトしたことあって、この業界が初めてっていうわけではないんです」
 「へー、じゃぁ内田が先生やん。よぉーっと習わんね。こいつも面白いやつやけん」
 「はい。よろしくお願いします」
 急に俺のほうを向いてお辞儀されたんでちょっととまどった。とりあえず俺も頭を下げた。高尾は嬉しそうに言った。
 「いいねぇ。これから一年間、三人で楽しくやろうや」
 俺の覚えている限り常に陽気な高尾の性格がうらやましかった。こいつにとっては毎日が楽しいのだろうな。俺には高尾みたいなやつがそばにいてくれることが一番かもしれないと思った。こいつと馬鹿な話をしている時だけはかつての俺に戻れるような気がした。
 さて、悲しみが一休みしている間にどんどん仕事にはまっていこう。俺は高尾と彼女の会話がとぎれたところで二人に打ち合わせしようと言った。
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