えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第2回

 俺の勤めている会社は出版社で、「ちくし」というローカル情報誌を発行していた。俺はそこでライターをしていた。専門は歴史。毎回なにかテーマを決めて、それについて徹底的に調べて書く。結構まめな性格なのでこういう仕事は好きだった。前回のテーマは立花道雪について。千秋のことがあってだいぶ遅れはしたが、なんとか記事も書き終えて提出した。その日は新しいテーマをもらう日だった。どんなテーマにしてもそれに完全に没頭してしまおう、今は仕事だけが救いだと思った。
 まだ早いオフィスに、すでに瀬戸山課長がコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。俺が挨拶しながら入って来たのに気づくとこちらをちらっと見て、「お、内田早いね」と言うとまた新聞に目を戻した。わざと平静を装っているのがわかった。俺のような経験をした部下を持ったらどう接したらいいか、おそらく課長も悩んだことだろう。はじめは慰めたり励ましたりしてくれたが、いつまでもそんなふうに接していると俺がもとのように元気になれないと思ったのだろう。最近は何事もなかったかのように普通にしている。この人には一番心労をかけただろう。申し訳ない話だ。俺のほうも感謝の気持ちを表現したいが何も思いつかなかった。とりあえず今度のテーマで今までに劣らないいい仕事をしよう。瀬戸山課長ならわかってくれる。そう思った。
 「打ち合わせするけん、会議室に来て」
 「わかりました」
 俺はコーヒーをいれると会議室に入った。課長も企画書の束を持って入って来た。
 「今度のテーマが決まったぞ」
 「何ですか?」
 「千如寺って知っとるか?前原の雷山にある古い寺やけど」
 「はい。何回か行ったことがあります。住職の北村さんには懇意にさせてもらっています」
 「そうか。それなら仕事しやすかろう。千如寺についてたっぷり記事を書いて欲しいとよ。いつもよりたくさんね。特集を組むけん。五回のシリーズにして連載するけん」
 「すごいですね。いつから連載スタートですか?」
 「時間はある。ちょうど一年。来年の秋から連載を始めるけん。うまくいけばそのまま本にするかもしれん」
 「でも一年ってえらい長いですね。そんなに必要ですか?」
 「千如寺の一年の行事と春夏秋冬の境内の自然を載せるけん」
 「なるほど」
 そうなると一年以上雷山千如寺に没頭するわけだな、それも面白いかもしれないと思った。
 「面白そうですね。今日から始めてよかですか?」
 「お、張り切ってるねぇ。いいねぇ。今日から始めていいよ。今回は会社も気合入れとるけんね。カメラマンも高尾をつけるよ。あいつが我が社じゃ一番やけん。それとお前も一人で調べ物は大変やろうけん、助手を一人つけるけん」
 「いらんですよ。一年もあるなら」
 課長はコーヒーを飲み干すと顔をしかめながら言った。
 「まぁそう言うな。せっかく予算がついたけん使ってくれ。こないだ入社したばっかりの新人やけん、最初は使えんかもしれんけど」
 そして課長は時計を見上げて、「もう来ると思うちゃけどね」と言った。
 新人が入ったとは全然知らなかった。しかもこんな時期だから中途採用だろう。上のほうのお偉いさんのコネかな?まぁ俺にとってはどうでもいいことだと思った。
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