えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第48回

 帰宅する車の中でハンドルを握る俺の気持ちは高ぶっていた。まだ自分の内側に熱が残っていた。だが言うべきことを言った達成感はあった。
福田さんとの応接室での会話で、自分が言った言葉は一字一句覚えていた。

 「仕事の話じゃなかったんですか?」
 「すいません。こげんでもせんば、ちゃんと聞いてもらえん思うて」
 「・・・私がずっと連絡しなかったことを怒ってあるんでしょ?すいません」
 「いいえ、私もちょっと時間置いて考えたとです。休みをもろうてちょっと旅行したりもして、いろいろ考えたとですけど、やっぱり私・・・」
 「福田さん、すいません、今日はきちんと返事しておきます」
 「・・・・・・」
 「だめなんですよ。まだもう少し千秋の思い出とともに生きたいんです。彼女の存在はあまりに大きかったんです。すぐに代わりの誰かを探して新しい人生をなんて、まだできないんです。ですので、どうか、そのへんをわかっていただけると・・・」
 「・・・・・・」
 「・・・お気持ちは非常にありがたいんですが・・・」
 「・・・わかりました」
 
あの時の彼女の目はどこか達観したような落ち着きがあった。俺がそういう返事をすることをある程度予想していたのかもしれない。彼女は静かに席を立つと、もう何も言わずに応接室から出て行った。その背中を見ながら、ひょっとすると俺は今ひとつのチャンスを見送ってしまったのかという思いがよぎった。だがすぐにそれを打ち消すように自分も応接室から出て会社に戻った。
福田さんを諦めさせるためとはいえ、俺が言ったセリフというのは同時に遠田に対して言っているのと同じことだということを後になって気付いた。千秋を過去の自分に任せて、これから新しい自分になろうとしていた矢先に俺の口から出たセリフは、自分の行く先を閉ざしてしまうものだった。
 理由はなんであれ、福田さんの気持ちを考えれば、彼女を断ったすぐ後に遠田とつきあうわけにはいかない。だがしかし、そもそも俺は本当に遠田が好きになったのだろうか?彼女への興味は本当に愛なのであろうか?ここに到って俺の中には大きな疑問が生じてきた。千秋と同じように彼女を愛せるだろうか?彼女が生きがいになるのだろうか?苦しみから逃れるための妥協だったのではないだろうか?だとすればこの感情は間違ったものであり、真の愛情ではないことになる。ここに到ってこういう疑問が自分の中に生まれるとは思っていなかった。嶮しい山の中で方角を見失い、今やっとかすかに道のようなものを見つけたが、それが正しい道かどうか自信がない。そんな状態に陥ってしまった。
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