えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

千の灯火(ともしび) 第47回

 その年の梅雨は六月後半から始まった。高尾が千如寺に撮影に行ったのは六月三十日だった。社内は締めで慌しい雰囲気だったが、音もなくしのつく雨の様子が撮影にちょうどいいということで高尾は一人で出かけて行った。俺と遠田は会社で事務処理に追われた。
 俺は自分の机で顧客名簿の書類を整理していた。その中に「天神プランニング」に関するものがあった。その名前に目を止めた時、俺は福田さんのことを思い出した。もう半年ぐらい何も音沙汰なかった。こういう形で一つの関係が徐々に薄くなっていくのは俺の本意ではなかったが、遠田のことを考えると俺のほうからどういう動きをしていいか検討がつかなかった。連絡がないのを幸い、このまま過去のフォルダーにしまってしまおうかとも思ったがどうもすっきりしないものがあった。
遠田は俺に尋ねたりはしないが、俺がはっきりとした返事をしていないことを知っている様子だった。その話題に敢えて触れようとしない彼女が健気に思えた。
 もろもろの考えに捕らわれていつしか俺の手は止まっていた。我に返って整理を再開したところに「内田!電話」という瀬戸山課長の声が聞こえた。
「一番に天神プランニングの福田さんから」
「はい」
俺の頭の中は一瞬混乱した。何も準備できていない、どういう態度でどういう言葉で何を言えばいいのか?携帯ではなく会社に電話すれば電話をとらざるを得ないと考えたのか?全くの不意打ちにやられた俺は話す前から負けている状態だった。ただ遠田がちょうど席を外していたのは救いだった。
「もしもし、かわりました。内田です」
「内田さんですか?ご無沙汰しとります」
「すいません、ご無沙汰しています・・・」
「あのぉ、うちの新企画の件でちょっと打ち合わせばしたいとですけど、今日お時間とれますか?」
「今日ですか・・・?」
時間は十分あるのに俺は予定を確認するように少し間を置いた。本当に仕事の話だろうか?それならば行かないわけにはいかないが、単なる呼び出すだけの口実なら?
「今日でないとだめですか?」
どうでもいいようなことを言って考える時間を稼いでも混乱した頭では何も思いつかなかった。
「できれば今日お願いしたいとですけど」
「わかりました。では三時くらいでは?」
「よかです。どこで会いまっしょ?」
「私がそちらにお伺いします」
「よかとですか?」
こちらに来られると面倒なことになるのはわかっていたので俺は慌てて押し通した。
「はい。三時にお邪魔します。ではその時に」
電話を切ると遠田の席を見た。まだ戻っていなかった。ほっとすると同時になぜ俺がこんなに気をまわさないといけないのかと思ったがもとはと言えば俺の曖昧な態度が原因なのだと自戒した。そしてこの機会を利用してはっきりさせてこようと心に決めた。
約束の時間の三十分前に会社を出た。傘をさすほどでもないゆるい霧雨が通りを覆っていた。行きかう車の中にはフォグランプをつけているのもいた。俺は歩道の水溜りをさけつつ足早に天神プランニングのビルへと急いだ。
一階の受付で名乗るとすぐに応接に通された。パーティションではなくきちんと個別の部屋になっていた。長椅子に浅くかけて福田さんを待った。事務員さん風の女性がお茶を運んで来たのと入れ替わりに福田さんは入って来た。
「お待たせしました」
彼女は屈託のない笑顔で接してくれた。
「だいぶご無沙汰してすいません・・・」
俺はビジネスライクにそう言うと軽く頭を下げた。そしてすぐに仕事の話題を切り出した。
「新企画ってなんですか?なんかうちと共同でできることですか?そうだとすごい楽しみです」
多少、社交辞令を交えて俺がそう言うと、彼女は自分の前に置いたファイルをすっと右側にずらして、正面から俺の目をはっきりととらえて言った。
「私の家にご招待しますけん、一緒に食事ばするっちゅうのはどげんですか?」
「え?」
「それが新企画です」
スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。