えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第45回

 遠田を新宮駅まで迎えに行き、家に戻ってから狭いキッチンをシェアして俺がラグーソースのパスタを、遠田がオリジナルドレッシングのサラダを作った。
 「すごいですね、内田さん。ラグーソースとかも作るんですね」
 「基本的にパスタが好きだからいろんなパスタに挑戦したんよ。でもうまく作れたのは少ないんよ。これとペペロンチーノとカルボナーラぐらいかな。ポモドーロとか、トマトソース系があんまりおいしく作れんと」
 俺は物置からキャンティを出してきて栓を抜くとテーブルの上に置いた。それを見た遠田が言った。
 「うわー、そんないいワイン開けていいんですか?」
 「うん。独りの時に開けるの、もったいないけん。そのバゲットを薄く切ってオーブンであたためてくれる?」
 「はーい」
 軽やかな身のこなしから、彼女が上機嫌であることがわかった。
 「バゲット焼けたら食べよう」
 「はーい」
 我が家のテーブルに二人分の食事が用意されたのはかなり久しぶりだった。千秋のことがあってしばらくは家族や親戚が次々に泊まりに来て、俺を独りにしないようにしてくれていたけど、それよりも独りのほうがまだ精神的負担がないことを言ってからみんな気を使ってくれて、電話はしても泊まりには来なくなった。それ以来、自宅での食事はいつも独りだった。
 「焼けましたよ。食べましょう」
 「うん」
 ささやかながらテーブルに並んだ二人分の食事を見た時、俺は時間が戻ったような気がした。向かいに座っているのが千秋のような気がしたが、そんな幻覚を俺はすぐに振り払って遠田と乾杯した。
 「内田さん、おいしいですよ。ソースがよくパスタにからんでます。このパスタはどこのですか?」
 「バリラだよ」
 「あーやっぱり。おいしいですもんね」
 「遠田はパスタ好き?」
 「大好きです」
 「特に好きなパスタある?」
 「そうですねぇ・・・どれも好きですけど、一番よく食べるのはシンプルなペペロンチーノですかね」
 「そうか。それなら得意や。この次はペペロンチーノを作ってやろう」
 食べている手を止めて遠田が俺の顔を見た。
 「・・・この次があるんですか?」
 「なんで?もう来たくない?」
 「来ます!」
 そしてまた食べ始めたが、パスタで膨れた口のまま俺のほうを見て、「ふふ」と笑った。おそらくその一瞬の遠田の笑顔は俺が今まで見た中で最高にかわいかった。
 「連休明けたら御経会やね」
 俺は彼女を帰したくなくなるといけないと思い、話題を仕事にもっていった。
 「はい。千如寺さんの行事のイベントもあと二つですね」
 「そうやね。御経会と千日観音で終了や。でも千日観音は八月やけん、もうちょい頑張らんといけんね」
 「御経会ってあの御経をぱらぱらーってめくるやつですよね?」
 「そうそう。こないだ去年の写真を見せたろ?」
 「はい」
 「観音堂に和尚さんたちがずらーっと並んでね。太鼓と念仏にあわせて御経をぱらぱらーっとめくるんよ」
 「躍動感がある写真が撮れそうですね」
 「うん。高尾は腕の見せ所やね。あの行事をどういうふうにフィルムに収めるか楽しみや」
 食事の後、DVDを見たりしてゆっくり過ごした。
 遠田は九時の電車で帰った。駅での別れ際の寂しげな表情には名残惜しさがあったようだったが、俺は慌てる必要はないと思った。徐々に自分を変えていこう。新しくしていこうと思った。
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