えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第41回

 翌日から遠田は出勤した。まだ身体が重そうな感じはあったが、顔色はよくなっていた。
 あの日以来、福田さんからはメールも電話も来なくなった。土壇場であんなふうにキャンセルしたのだから怒って当然だろう。もう連絡は来ないだろうと思った。そうなるのも縁だからしょうがない。しばらく待って本当に音沙汰なくなったら瀬戸山課長にお詫びをしておいたほうがいいかなと思った。
 俺は打ち合わせをするために遠田と高尾を会議室に呼んだ。
 「二月は千如寺の眷属二十八部衆を全部撮影するよ」
 高尾はコーヒーを飲みながら聞いていた。遠田はノートを開いてペンを持った様子が真剣に見えた。
 「それで、どこで撮ったがいいかいね?高尾はどうしたら撮りやすい?」
 「観音堂の下の段のところが広いけん、あそこに運んで撮るか」
 「よっしゃ。スクリーンも持って行かないけんね。軍手も忘れんようにせんと。じゃあいつ撮りに行く?」
 「一番人が少ない時がいいけん、平日の午前中かな」
 「了解。住職に電話してみる」
 遠田は無言でメモをとっていた。高尾が心配そうに声をかけた。
 「風邪治った?大丈夫?」
 「はい。もう大丈夫です。すいませんでした」
 俺も何か彼女に声をかけたかったが、前日のことがあったのでそれもどこか白々しい感じがしてためらわれた。俺は場の雰囲気を仕事に戻した。
 「観音堂の下のところて、観音像に向かって右側やろ?」
 「そうそう。いつも住職が昔の雷山房のかけじくの説明をするところ」
 「はいはい。あそこにスクリーンを置いて、照明を置いてっちゅう感じやね?」
 「そうそう。そこに内田と遠田が一個ずつ運んでくると」
 「あれって多分、結構重いよね?」
 「どうやろ?慎重に運ばないけんよ。傷でもつけたら大変や」
 「ゴムがついた軍手のほうがいいかいな?普通の軍手じゃ滑るよね?」
 「うん。それがよかろうね。それと・・」
 高尾が何か話を続けようとした瞬間に、俺の携帯が鳴った。高尾は出ていいよという仕草をした。液晶を見てみると福田さんだった。まずいタイミングだった。遠田は俺が液晶を見てためらったことから誰からの電話かを察した様子で俺のほうを見ていた。前回の電話も出なかったし、あんなキャンセルの仕方をしたことを謝る必要があるのにここでまた電話に出ないというのは失礼にもほどがあると思ったので、俺はためらいつつも、「ちょっとごめん」と会議室を出て電話をとった。
 「もしもし?内田さん?」
 「はい・・・昨日はすいませんでした」
 「いえ、よかです。忙しかとでしょ?」
 「すいません・・・コンサートどうでした?」
 「私も会場には入らんかったとです。一人で聞いてもおもしろなかですけん」
 「チケットが無駄になりましたね。ほんとにすいません」
 「あれは貰ったもんやけん、気にせんどって下さい。ベルリンフィルとかやったら一人でも聞いたかもしれんですけど。あははは」
 電話口の彼女の笑い声はどこか寂しさが混じっていた。
 「内田さん、反省しとるですか?」
 「はい・・・反省してます」
 「じゃぁ、埋め合わせばしてもらわんといけんですね」
 当然の要求だが、その埋め合わせをすることによってまた彼女と過ごす時間を増やすことに不安を感じないわけにはいかなかった。いっそキャンセルされたことを怒って連絡が途絶えてくれたほうがよかったのではないかと思った。
 会議室に二人を待たせているのが気になったので電話が長くならないように話をまとめようと思った。
 「何か・・・埋め合わせする方法を考えます」
 「ほんとに?」
 「はい。今はちょっと会議中なんで後でまた連絡しますね」
 「あ、すいません、じゃ後で」
 「はい」
 電話を切って会議室に戻った。遠田の視線をまともに受けられない自分が情けなかった。
何事もなかったかのように俺は打ち合わせを進めた。
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