えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第38回

 雪の取材の翌日、俺は会社で千如寺の文化財に関する記事を自分のデスクで書いていた。高尾は現像室にこもりっきりになっていた。外は平地でもちらほらと雪が見えるような寒さだった。道路が凍結しているところもあるようで、渋滞している様子だった。
 その日、遠田は休んでいた。瀬戸山課長に聞くと風邪をひいたらしかった。どうもあの千如寺での大文字騒ぎがまずかったのかもしれない。まぁ大したことはないだろうと俺はあまり深く考えずに仕事に没頭していた。
 ずっとパソコンの画面を見ていたので目が疲れて、少し休憩しようと思った時にちょうど携帯電話にメールが届いた。遠田が自宅から送ったのかもしれないと思って見てみると福田さんだった。
 “お疲れ様です。寒いですね。風邪ひいてませんか?”
 メールは標準語なんだなと思いながら俺は返事を送った。
 “ほんと寒いですね。私は大丈夫です。どうされました?”
 “内田さんはクラシック聞きますか?”
 “大好きですよ。”
 “よかった。九州交響楽団の定期演奏会のチケットがあるんですけど、一緒に行きませんか?”
 “いつですか?”
 “今週金曜日の夜です。アクロスのシンフォニーホールで。十八時開場です”
 “いいですね。行きましょう。ありがとうございます。”
 “じゃぁ十八時にアクロスの一階でお待ちしています”
 “了解です。”
 クラシックコンサートは千秋も好きだったので二人でよく行ったものだったが、あの日以来一度も行ってない。これも俺の人生の喜びの灯火の一つだったのかもしれない。小さい小さい火かもしれないが、こうやって一つづつまた灯していかなければならないんだろうなとは自分でもわかってはいたが、自分から行動を起こす気にはなかなかなれなかったのでこれはいい機会かもしれないと思った。
 福田さんの好意を俺はどう受け止めるべきか、自分の中でまだ結論は出ていなかった。いや、結論を出そうと考えることすらも避けていた。そんな心境になれない自分をどう扱っていいかがわからない。いや、こうも考えられた。彼女は誰もが認める魅力的な女性だったが、俺は彼女を得るために行動を起こそうとはしなかった。ただ、優れた美術品を見るかのように彼女の美貌と人間性には感嘆したが、心までは動かなかった。これは要するに彼女は自分にとって友人の域を出ない人なのではないかと。
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