えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第36回

 俺はいつしか泣いたまま酔いつぶれたように眠ってしまった。千秋と御節料理を食べている夢を見た。料理はどんどん腕を上げておいしくなっていくけど、食べこぼす癖はなおらないなぁと言いながら二人で笑ってた。食事が終わって千秋が食器を片付けるために立ち上がったところで目が覚めた。立ち上がったのは福田さんだった。テーブルの上のものを片付け始めていた。
 「内田さん、まだ寝とって下さい。疲れとりんしゃぁでしょ?」
 「いえ、もう大丈夫です。すいません。どれくらい寝てました?」
 「一時間くらいですよ」
 「長居してしまいましたね」
 「まだ帰れませんよ。酔いが冷めるまで運転したらだめですよ」
 あつかましいとは思ったが、言われるようにまだ運転できるような状態ではなかったので酔いが冷めるまでいさせてもらうことにした。
 「さっきは・・・すいません。お見苦しいところを・・・」
 「なんがですか。気にせんで下さい。私に心の中を打ち明けてくれんしゃったとが嬉かです。たまには誰かに聞いてもらうほうがよかですよ」
 「ええ。なんか少し重みが減ったような気はします」
 福田さんは洗いものをしながら話していた。俺はソファの前に座ったまま、部屋を見回した。その時に初めて部屋の中が無駄なものがなくセンスよく片付けられていることに気付いた。
 「きれい好きなんですね」
 「いや、普段は汚かとです。内田さんが来るけん、今朝慌てて掃除したとです。コーヒー飲みますか?酔い冷ましにいいですよ」
 「あ、お願いします」
 「豆から挽くんでちょっと時間かかりますよ」
 「豆挽くんですか?じゃそれ私にやらせて下さい。据え膳だけじゃ申し訳ない・・・」
 「よかとですか?すいません。豆は冷蔵庫にあります。グラインダーはそこに・・・」
 俺はグラインダーに豆を入れてまわし始めた。心地いい香りがしてきた。豆はモカマタリだった。俺の好きな豆だった。
 「豆はどこで買うんです?」
 「飯塚のオアシスコーヒーです。通販でいつも買うとです」
 「オアシスコーヒーご存知でしたか」
 「内田さんが前に『ちくし』で紹介されとったやないですか。あれで知ったとです」
 「あれは私じゃなくて瀬戸山課長ですよ。グルメコーナーは課長が書いてます」
 「そうでしたっけ?」
 「ええ。オアシスコーヒーは課長のお気に入りですから。私もうちで飲んでます」
 キッチンで挽き終わった粉をフィルターにうつして彼女がお湯を注いだ。粉はやわらかくふくらんでゆっくりと沈んでいった。俺も彼女の横でそれを見ていた。コーヒーが落ちるのを待つ時間はそこにいる人に何か話しかけないといけないと思ってしまうのは俺だけだろうか?
 「あの・・・私は福田さんに待ち伏せされたのは嬉しかったですよ・・・」
 「え?」
 お湯を注ぐ彼女の手が一瞬止まった。
 「あなたは魅力的な人だと思います・・・男性ならみんな喜ぶと思いますよ」
 「それは・・・どう受け止めたらよかとですか?」
 コーヒーが落ちていく音がしていた。それ以外には何の音もしなかった。
 「またチャンスがあるけん、あきらめろていうことですか?」
 俺としてはそういう意味だったが、俺の答えを待つ彼女の緊張した表情を見ていると肯定することができなかった。
 「いや、そういう意味じゃなくて・・・ただ、男性ならみんな魅了されるほど素敵ですよと言いたいだけです」
 こう言っても彼女の表情は明るくはならなかった。俺の真意をさとったのかどうか、よくわからない表情をしていた。次に彼女がどう言うか俺は待った。だが彼女はコーヒーをカップに注いで、「飲みましょ」とだけしか言わなかった。
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