えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第34回

 俺は料理と雰囲気がいいと酒がすすむので、この時もかなり杯を重ねてしまった。こうやってくつろいで酒を飲むこと自体、久しぶりだったせいかもしれない。
 俺につられてか、彼女もよく飲んだ。酒が強くて、かつ博多弁で話す彼女はまさに博多のごりょんさんという感じだった。
 「福田さんもお酒強いみたいですね」
 「あんまり飲む機会はなかとですけどね。今日は内田さんが来てくれたけん、嬉しかけん、飲みすぎてしまいます」
 「私もだいぶ飲みました。この酒おいしいですね」
 「でしょ?新潟のお酒ですけど私これ好きなんです」
 彼女の目の輝きは酔ったせいかいつもほどではなかった。逆に少し曇った感じのその瞳が俺には妖艶な感じがした。
 会話がとぎれた時、彼女は低いテーブルの向い側で片手を床について、もう片方の手でさかずきをもてあそびながら何かを言い出しかねているような様子をしていた。それに気付いた俺は彼女に聞いてみた。
 「どうしたんですか?なんか言いたそうですね」
 「え?・・・いや・・・」
 「言って下さいよ。気になるじゃないですか」
 「はい・・・」
 そこで彼女は居住まいをただして、俺に目を合わせないで話し始めた。
 「あの・・・私、内田さんにあやまらないけんとです・・・」
 「なにをですか?」
 「紅葉の時に千如寺で会った時、実は待ち伏せしとったとです。それと、図書館で会った時も・・・」
 「なんだ、そんなことですか。そんなのなんであやまる必要があるんですか?」
 「実はちょっと事情がありまして・・・」
 彼女は下げていた目線をちらっと俺のほうに上げたがすぐにまた下げた。
 「私、前から『ちくし』ば読みよって、内田さんの文章が好きやったけん、いつか会ってみたいて思いよったとです。そしたらうちの社長と瀬戸山課長が知り合いっていうのを知って、社長に相談したとです。内田さんがどんな人か見たいけんって。そしたらうちの会社の十周年記念パーティーの何日か前に社長に呼び出されたとです。その席には瀬戸山課長もおったとです。そして内田さんが飛行機事故で奥さん亡くされてずっと元気がないていう話を聞きました。瀬戸山課長は内田さんに誰かいい人おらんか探しよったらしいとです。それでうちの社長が私はどうやろうかて思ったらしくて・・」
 俺はそう意外な感じは受けなかった。瀬戸山課長の思いやりには慣れていたので、やりそうなことだと思った。ここまで家族的な上司が他にいるだろうか?感謝の思いは酔った俺の胸にきつく沁みていった。
 「それで、パーティーの時に瀬戸山課長のかわりに内田さんが来るけん、紹介するていうことになったとです。その後で社長に、気に入ったらつきあってみらんか?て言われたんですけど、内田さんはまだそんな気分にはなれんやろうけん、最初は友達ていう形で接触したほうがいいやろうていうことになって、内田さんの行動予定を瀬戸山課長から聞いて待ち伏せしたとです・・・」
 まさに遠田の読みの通りだった。女性の勘はすごいなと思った。
 「でもなんかずっとだましとるようで、申し訳なくて・・・実は今日の雑煮も友達のためじゃなくて、内田さんのために作ったとです・・・」
 俺は返す言葉に迷った。気にするどころか逆に感謝したいことと、そんなからくりがあったことに対して何も思ってはいないことを伝えたかったが、口から出た言葉は、「そうだったんですか・・・」という月並みなものだった。
 「ごめんなさい・・・」
 しおれた様子の彼女が痛々しかったので、俺は慌てて慰めた。
 「そんな、あやまらんで下さい。何も思ってないですから。女性に待ち伏せされて喜ばない男なんていませんよ。気にせんで下さい」
 彼女はようやく目線を上げた。少し安心したような様子が表情に表れていた。
 「そんなこと気にせんで、もっと飲んで下さい。今日は元旦ですよ。一年の初めは楽しくいきましょうよ」
 俺はこんなセリフを言う自分が信じられなかった。ずっと慰められてばかりだったので、慰めるという感覚は久しぶりだった。まだ俺でも誰かの役に立つのかなと少し嬉しく感じた。
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