えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第33回

 翌朝、眠い目をこすりながらホテルのフロントでチェックアウトし、朝の冷気が一層厳しい雷山へ戻って、初詣の人の様子を七時くらいまで取材した。そして北村住職と奥さんに新年の挨拶をした後、雷山を後にした。
 元旦の朝は車も少なかったので有料道路を使わずに走った。二〇二号線をひたすら東に走り、三号線にぶつかると左折して箱崎へ向かった。
 本屋の駐車場に着いた時はまだ八時半だった。福田さんはまだ寝ているだろうなと思い、しばらくそこで仮眠しようかと思ったが、もしかすると朝ごはんとして準備して待っているかもしれないと思い、一応電話だけはしてみることにした。
 呼び出し音が鳴るとすぐに受話器から彼女の声が聞こえた。
 「着きました?」
 「あれ、私ってわかるんですか?」
 「番号登録しときましたけん。意外と早かったですね」
 「早すぎたかなと思ったんですけど」
 「いいえ、準備はできとりますけん、どうぞどうぞ」
 俺は彼女の誘導で車を移動し、学生が住んでいそうな小さいマンションの彼女の部屋のドアの前に立った。呼び鈴を押すとすぐに中からドアが開いた。
 「どうぞー」
 「失礼します」
 部屋の中は雑煮のいい香りがした。故郷の正月を思い出すようだった。
 「いい匂いですねぇ」
 「今あたためよったとです。どうぞ座って下さい」
 マンションの小さい外観のわりには部屋の間取りは広かった。一人暮らしには十分以上と思われた。俺は大きな液晶テレビの前に置いてある低いテーブルの前に座った。後には柔らかそうな低いソファーがあり、そこに背をもたせかけるとかなりリラックスできた。
 テーブルの上には既に田作りや黒豆、お煮しめなどが並んでいた。お猪口まで置いてあった。
 「先に乾杯しまっしょ。お酒ありますけん。これ、上善如水。知っとるですか?おいしかですよ。これをお屠蘇がわりに・・・」
 彼女は小さい瓶に入った日本酒を俺の猪口に注いでくれた。自分のにも注ごうとしたので俺は慌ててその瓶をとって、彼女に酌をした。
 「じゃ、乾杯。あけましておめでとうございます」
 「おめでとうございます」
 一口目の酒は何も入っていない胃に気持ちよくしみていった。すっきりとした味が気に入って、何杯も重ねてしまった。
 「料理全部自分で作られたんですか?」
 「全部やなかですけど。黒豆とか作りきらんけん、実家から送って貰うとです」
 「実家は博多やないんですか?」
 「私生まれは綱場町です。でも親は引退してから引っ越して九重におります」
 「九重?いいとこですねぇ」
 「両親とも前から住みたいて言いよったとです。父親が退職金で九重に土地ば買うて好きな家建てて住んどります」
 「じゃぁ実家に帰る時はリゾート気分ですね」
 「家の周りは別荘ばっかりです」
 「ハイソな感じなんでしょうね」
 「でもシーズンオフはみんなおらんくなるけん、寂しいみたいですよ。あ、お雑煮持ってきますね」
 彼女はキッチンに戻り、あたたまったお雑煮を小さいお盆にのせてきた。
 「はい。うちのオリジナルの味です。博多の雑煮ともちょっと違いますけん」
 「いただきます」
 味わってみると、上品な薄味で九州人の俺にとっては新鮮だった。
 「おいしいですね、これなら何杯でも食べれそうです」
 「何杯でも食べて下さい。いっぱいありますけん」
 俺は夕べからろくなものを食べてなかったので調子に乗って三杯も食べてしまった。さすがにきまり悪くて、「すいません、あつかましくて・・・」と言ったら彼女はひどく嬉しそうな表情で、
 「いいえ、まずくてあんまり食べてもらえんかったらどうしょうか思うたけん、よかったです」
 と言った。
俺はその時久しぶりに安らぎというものを感じた。
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