えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第30回

 十二月に入り、会社の中もどこか慌しくなってきた。俺は秋の紅葉の記事の校正と、大晦日の取材の準備のために、遠田を連れて図書館に来た。二階で向かいあってペンを走らせている時に、遠田が言った。
 「内田さん、大晦日の取材が終わった後はどうするんですか?帰省しないんですか?」
 「何も考えてないよ。家で寝るよ。遠田はどうすると?」
 「私、田舎に帰ります」
 「何日まで?」
 「多分、三日くらいまで。内田さんもちょっと帰ったらいいのに」
 「ひょっとしたら両親のほうが来るかもしれん。食糧を抱えて」
 「時々来られるんですか?」
 「うん。実家に畑があるけん、野菜とかどっさり持ってくるよ。自炊してるなら今度少し分けてやるよ。料理は得意?」
 「得意じゃないですけど、好きです。じゃぁ今度来たら少し下さい」
 「いいよ」
 俺はそこで席を立つと、宗教の棚に資料を探しに行った。膨大な数の書籍の中で、このコーナーだけは人が少なかった。どこか日本という国を象徴しているような気がした。だがそのほうが俺にとっては静かにゆっくり探せるので気が楽だった。
 ある本に興味深い箇所があったので立ったままそこで見入っていると、俺のいる場所の右手にあった窓のほうからの光がさえぎられた。誰かいるのかと見てみると女性がそこに立っていた。
 「内田さん、なんばしよらすとですか?」
 女性は光を背に逆行の状態で立っていたので誰だかすぐにはわからなかったが、博多弁を聞いてそれが「天神プランニング」の福田さんだとわかった。
 「あれ、福田さん、よく会いますね」
 「ほんとですね」
 「私のこと尾行してるでしょ?」
 俺が笑いながら言うと彼女は、「バレました?」と舌を出した。
 「私、内田さんのストーカーやとです。ずっと後をつけよるとです」
 「怖いですね」
 図書館なので俺たちは声をひそめるようにして笑った。
 「ほんとは仕事の調べ物に来たとです。内田さんもそうでしょ?」
 「はい」
 「私、記事の調べ物で時々来るけん、今までもどこかですれ違うたかもしれんですね」
 「そうですか。私は週一回くらい来ますよ」
 「今日は何を調べよぉとですか?」
 「こないだの千如寺ですよ。もうずっとこればっかりかかりきりです」
 「大仕事ですね」
 「ええ。会社も私も気合入れてます。あ、もしかしてスパイしてます?」
 「ふふふ、そんなの秘密でもなんでもなかですよ。瀬戸山課長がうちに来て世間話に社長に話しよらすけん」
 「なんだ、そうですか」
 彼女は声を出さずに笑っていた。
 「内田さん、一人ですか?」
 「いえ、弟子を一人連れてます」
 「弟子?」
 「ええ。新人なんですけど、今ライターの修行中です」
 「お弟子さんがおるとですか。私も内田さんに弟子入りしたかです。師匠は厳しいですか?」
 「厳しいですよ」
 俺がにやりと笑うと、彼女も同じような表情を作ったのが、俺には何か意味があるように思われたが、彼女はそこで、「じゃぁ、私帰りますけん。またどこかで会いまっしょ」と言うと、もと来た方向へ戻って行った。シルエットになった彼女の後姿は彼女のスタイルをきれいに表現していた。美しいラインだった。俺は小さく「お疲れ様でした」と声をかけた。
 宗教のコーナーで見つけた本を抱えて席に戻ると、うつむいて記事を書いていた遠田が急に顔を上げた。
 「今の人誰ですか?」
 「は?見とったと?」
 「私も本探しに行ったんですよ。そしたら仲良さそうに話してるし」
 「天神プランニングの社長秘書の福田さんよ」
 「あぁあの人がそうですか。きれいな人ですね」
 「うん。美人秘書で有名よ。富田社長のご自慢よ」
 俺は遠田の声がちょっとトーンが下がっているのに気付いた。
 「ここに何しに来てたんですか?」
 「同じよ。調べ物って」
 「ほんとですか?実は内田さんに会うために待ち伏せしてたんじゃないですか?」
 「するかいなそんなこと。まだ二回しか会ったことないんよ?」
 「二回?パーティー以外でどこかで会ったんですか?」
 「紅葉を撮影に行った時に千如寺で会ったよ」
 「その時は何しに来てたんですか?」
 「遊びに来てたみたい」
 「一人で?」
 「うん」
 「それも待ち伏せですよ。内田さん狙われてますよ」
 遠田の下がったトーンの意味がわかった。
 「なんで俺が千如寺に行くとか図書館に行くとかわかるわけ?どっちも偶然よ」
 「瀬戸山課長と富田社長は仲良しでしょ?そのルートから聞いたんですよ、きっと」
 「アホらしい。なんでそんなまわりくどいことをせんといかんの?」
 彼女はそれには答えず、「絶対そうですよ」とふてくされたようにつぶやいた。その表情を見ていると、女性の多いパーティーに出席して帰りが遅くなった時の千秋のことを思い出した。確かあんな感じですねていた。かわいい顔ですねていた・・・。
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