えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

千の灯火(ともしび) 第28回

 「内田さんはライターの仕事されてどれくらいなるとですか?」
 彼女はまた博多弁で訊いてきた。
 「いや、まだそんなに長くはないですよ。ただ個人的に昔から史跡とか調べるのが好きでしたね。一人であちこちまわってましたよ。文章書くのも好きですしね」
 「じゃぁ天職ですね」
 「どうですか。まぁ好きですけど。あれ?ひょっとしたら私をスカウトしてます?」
 俺が冗談めかして言うと彼女は慌てて、
 「いえいえ、違います。そういう意味じゃなかとです」
 と打ち消した。
 「福田さんは今のお仕事好きですか?」
 「そうですね。社長が社交的やけん、いろんな人と会う時に同行するけんですね、出会いがたくさんあって楽しかです」
 「福田さんも社交的でしょ?そんな感じがする」
 「そうですね。結構誰とでも仲良くなれるタイプかもしれんです」
 「福田さんが人に好かれるのは多分その博多弁のせいですよ」
 俺は観音堂前の石段を降りながら、後にいる彼女を見上げて言うと彼女ははにかんだような表情をして言った。
 「そげん博多弁ですかね?」
 「いや、それがあなたの魅力だと私は思いますよ。その飾らないところが」
 俺がそう言うとはにかんだ彼女の表情が明るくなるのがわかった。俺は彼女の方言を誉めるつもりで言った。
 「私はですね、大学出てすぐの頃、何年か東京におったんですけど、東京で生活する時は標準語じゃないとおかしいて思って、無理に博多弁を使わんように気を使いましたよ。でも一緒に上京した友だちはずっと博多弁から抜け出れんで、『こいつ、恥ずかしくないとかいな?』と内心思ってましたけど、今思えば方言を使わんで地方出身ってことを隠そうとした自分のほうが恥ずかいです。方言は故郷の宝ですよね。関西の人とかはどこに行っても関西弁でとおす人が多いですけど、あれは誇りの表れですよね。私はあれでいいと思うんですよ」
 彼女はあの大きな瞳を輝かせてじっと聞いていた。
 「だから自分を飾らずに博多弁で話す福田さんは、その素朴さが受けてきっと人に好かれるんですよ」
 俺から意外な言葉をもらったというようなかすかな驚きを含む彼女の嬉しそうな表情は、返す言葉を探しているようだったがうまく見つからないようだった。
 「そ・・・そげん、ほめられたら・・・なんて言うていいかわからん・・・」
 「そげんもこげんもなかですばい」
 俺がそう言うと彼女は恥ずかしそうに笑った。大きな瞳が紅葉の木漏れ日を反射して光っていた。こんなきれいな瞳を見たのは初めてだった。
 「福田さんて目がきれいですよね」
 「私ですね、黒目の部分が大きいとです。なんでか知らんとですけど。多分それでそがん思われるとですよ」
 「あぁ、なるほど。黒い部分多いですね」
 俺がじっと観察するように目を見ると彼女は、「そがん見らんで下さい・・・」と慌てて視線を外した。どこにも飾り気のない素朴な仕草は俺には魅力的に感じた。
 「なんか、内田さんは口が上手やけん、だまされるばい」
 「だましてませんよ。思ったことそのまま言っただけです」
 俺たちは大楓のところに戻って来た。高尾は撮影が終わった様子で、機材を抱えて玄関のところで住職と話しながら俺の帰りを待っていた。
 「あ、終わっとったと?ごめん」
 「いや、今終わったとこ。あれ?なんや、デートしよったんか?」
 「天神プランニングの社長秘書の福田さんよ。たまたまそこで会ったんよ」
 高尾は、「『ちくし』のカメラマンの高尾です」と頭を下げた。
 「福田です。私、『ちくし』は読んどりますけん、内田さんの文章と高尾さんの写真はよぉ見てます」
 美人が思わぬ博多弁で返してきたので高尾もちょっと面食らっている様子だった。

 俺と高尾は住職に挨拶をして帰路についた。自分の車で来たという彼女ともそこで別れた。帰りの車内で高尾がやはり食いついてきた。
 「あの人ひょっとして課長が言ってた美人秘書か?」
 「そうそう。富田社長の秘書」
 「おぉ、あれじゃ評判にもなるわな。しかしあの博多弁にはまいったな。俺らの博多弁より強烈やもんな。あれは博多の年寄りの人が話す博多弁やな」
 「見た目とのギャップがいいやろ?」
 「うん。なんか逆にかわいいね」
 男は誰しもそういう印象を受けるらしい。
スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。