えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

PageTop

千の灯火(ともしび) 第27回

 十一月に入った。心地よかった風は肌寒さを覚えるようになったが、日中は暖かい日もあり、朝晩と昼との気温差が大きかった。十一月にそういう日が続くと山では見事な紅葉が見れる。雷山千如寺の大楓も見事に染まっていた。
 俺は三脚を立てて熱心に撮影する高尾の後ろから大楓の染まり具合を頭の中で去年おととしと比べながら眺めていたが、そこに北村住職が作務衣姿で出て来た。
 「今年はすごいでしょ?」
 住職は点数のよかった答案用紙を親に見せるような、隠し切れない嬉しさが顔に表れていた。
 「こりゃ、カレンダーになりますよ」
 撮影しながら高尾が言った。
 「ええ、もう何社か申込みが来てます。明日あさってくらいに撮影に来るそうです」
 「間違いなくここ数年では一番見事ですね」
 俺が記憶をたどりつつ言うと住職も同じ意見だった。
 「いやぁ、私もここまで赤く染まったのは今まででほんと二、三回くらいじゃないかと思います」
 「寒暖の差が激しいのがよかったんでしょうね」
 「そうですね。うまいこと雨もそう降らないから落ちませんしね」
 撮影している俺たちの横を次々と参詣する人が過ぎて行く。その多くはしばらく足を止めてデジタルカメラで大楓を撮影していった。
 「参詣に来る人も例年よりかなり多いです。バスで来る団体客が多かったですからね。」
住職はそこでふと気付いたように、「今日は遠田さんは一緒に来られてないんですか?
」と聞いた。
 「はい。今日は会社で記事を書いてます」
 「もう仕事には慣れてこられたころでしょう?」
 「そうですね。十分役に立ちますよ。彼女は何に対しても一生懸命ですからね」
 住職の後の玄関から奥さんが顔を出して、「住職、お電話です」と声をかけた。住職は「はいはい。じゃぁどうぞゆっくりしていって下さい」と足早に玄関から中に入って行った。
 「高尾、まだ撮る?」
 「うん。心字庭園も撮るけん、もうちょっとかかる」
 「俺、ちょっとぶらぶらしてきていい?」
 「いいよ。退屈やろ?間須さんと遊んどき」
 「今日はまずいよ。間須さん珍しく忙しそうやし。じゃあと頼むね」
 俺は高尾を大楓のところに残して、参道を観音堂のほうに歩いていった。参詣客が多いのであまりゆっくりは歩けなかった。観音堂の正面の石段は両側の赤く染まった楓の葉に包まれていた。その石段を登りきって、観音堂には入らずに左に続く道に曲がって護摩道場のほうに行った。ここにも紅葉があったが、他よりは人が少なかった。俺は自分のデジタルカメラで形のいい木を見つけて撮影した。一人で夢中に撮影していると、後ろで人の気配がした。俺は他の人の撮影の邪魔になっていると思い、慌てて脇によけると、後に立っていた人と目があった。
 「あ、内田さんですか?」
 「はい・・・」
 俺も見た瞬間に見覚えのある顔だというのがわかったが、どこで見たかをすぐには思い出せなかった。俺が困っているのを察した彼女は言った。
 「イル・パラッツォのパーティーでお会いした福田です」
 「ああ、福田さん!失礼しました」
 「今日はお休みなんですか?」
 「いいえ、撮影の仕事でカメラマン連れて来たんですけど、撮影の間暇なんでぶらぶらしてました。お休みですか?」
 「はい。紅葉がえらいきれかて聞いたけんですね」
 相変わらずきれいな顔に似合わない博多弁で明るく話す彼女だった。
 「彼氏とデートがてらに?」
 「彼氏が今おらんとですよ・・・今日も一人で来ました。寂しか女やとです」
  彼女は人懐こい笑顔を返した。
スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する
 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。