えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第26回

 食後に隣の「山ぼうし」でコーヒーを飲んだ。納屋を改造したこのカフェも長居したくなる心地よい雰囲気だった。
 かなりゆっくりしたのでお店を後にしたのは午後四時頃だった。遠田が買物をして帰りたいというので、途中スーパーに寄ったりした。彼女を自宅まで送り届けたのは午後五時半くらいだった。
 「すっごい楽しかったです。ありがとうございました」
 遠田は車を降りる時にそう言うとちょっと頭を下げた。照れを含んでいたが感謝の気持ちは伝わってきた。
 「うん。楽しかったね」
 「はい!また行きたいです」
 「・・・そうやね」
 我ながら微妙な返事をしてしまったが、遠田は気にするふうもなくドアを閉めて外から手を振っていた。俺は軽く手を挙げて挨拶を返すと天神に向かって車を走らせた。
 瀬戸山課長に出席を頼まれたパーティーは六時からということだったので今から行けばちょうどいい時間だと思った。
 日曜の午後の天神周辺は人も車も混雑していた。ようやくの思いでホテルの近くに百円パーキングを見つけて車を止めた。会場のイル・パラッツォに到着するとすでに百名以上はいるかと思える人たちで賑わっていた。
 立食パーティーだったので会場のあちこちで会話の輪が出来ていた。俺は天神プランニングの富田社長を探した。会場の一番上座にあたる部分でひときわ大きな輪が出来ていたが、その中心に富田社長はいた。俺は挨拶のタイミングを人の輪の外で待った。楽しげに話す富田社長のすぐ横に、背の高い女性が寄りそうように立っていた。きっとあの人が瀬戸山課長が言っていた美人秘書だろうと俺は推測した。大きな眼の澄んだ光が魅力的だった。ブラウスの白さが肌の白さを一層ひきたてていた。人前で話すのが苦手そうな清楚で上品な雰囲気を持っていたが、彼女が他の客と話す時にその印象は一転した。
 「なんば言いようとですか社長!もうそげんこつばっか言うけんすかんとですたい」
 博多弁丸出しで豪快に話すと大きな声で笑った。なるほど、そういうタイプかとちょっと俺は驚いた。
 「あれ?内田さんでしょ?『ちくし』の内田さんでしょ?」
 俺が彼女をぼーっと眺めている間抜けな顔を富田課長が見つけて話しかけてくれた。
 「あ、はい。内田です」
 「おぉ、久しぶりですね」
 「この度はおめでとうございます。瀬戸山がどうしても出席できず私が代わりにお邪魔しました。申し訳ありません」
 「いえいえ、瀬戸山から聞いとるけん、そんな気使わんで下さい」
 「しかし盛況ですね」
 「うん、おかげさまでたくさん来て頂きましたよ。あ、そうだ、紹介しときます」
 富田社長は横に立って俺と社長の会話を聞いていた博多弁の女性を見て言った。
 「秘書の福田です。いろいろ私が苦手な事務処理をやってくれてます」
 「『ちくし』のライターの内田です。よろしくお願いします」
 「福田です。よろしくお願いします」
 近くで見ると彼女の肌の白さが目に焼きつくようだった。
 「瀬戸山が言ってました。社長が美人秘書を雇ったからお前ちょっと見て来いって」
 「ははは!別に顔で選んだわけじゃないですけど、まわりにはえらい評判いいみたいです」
 社長に言われて彼女は立場がないように照れていた。
 「こないだ話した内田さんたい。歴史に詳しいライターさん」
 「はい。記事はよく読ませて頂いとります」
 ちょっとした受け答えにも博多弁が出るところが素朴で、彼女の飾り気のない内面を物語っていた。
 「恐縮です・・・」
 富田社長の俺を見る目がどうも意味ありげだった。俺は瀬戸山課長に報告しないといけないので美人秘書の印象を強く残そうとしばらくそこで立ち話を続けた。
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