えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第22回

 日曜の朝、俺はいつものように軽い朝食を済ませると、カジュアルな服を着て財布と携帯電話だけを持って車に乗った。すぐに都市高速道路に入り、百道で下りた。日曜の朝で道が混んでいなかったせいか、自宅から三十分で遠田のマンションの前に着いた。
 携帯電話で呼び出そうとしたが、彼女は既にエントランスの前に立って待っていた。いつもより子どもっぽい服装になっている彼女がかわいかった。
 「おはようございます!」
 セリカのドアを開けて明るい声が先に車内に入って来た。
 「おはよう。ずっと立って待っとったと?」
 「ちょっと早く出過ぎました。今何時ですか?」
 「今まだ十時十分前よ。俺もちょっと早すぎたけん、ちょうどよかった」
 「道空いてたでしょ?」
 「空いとった。走っとって気持ちよかったよ」
 「でも夏場にホークスのナイターがある頃は、この辺は大渋滞ですよ」
 「あぁそうやろね。俺も何回か見に来たけど帰りは混むけん、負けそうな時は八回くらいで帰りよったもんね」
 彼女はシートベルトを締めると、好奇に満ちた目で俺のほうを見て、「どこに連れてってくれるんですか?」と言った。
 「七山村はどう?行ったことある?」
 「ないです。でもよく聞きますね」
 「きれいな滝があって、その横がかなり長い散策道になっとるんよ。そことか、あと面白いお店も結構あるし・・・」
 「いいですね!行きましょう行きましょう」
 仕事の時には見せたことのない、子どものようなはしゃぎようだった。ドライブに行く時に助手席で千秋がいつも見せてくれた無邪気な笑顔を思い出した。
 車をもう一度百道インターから都市高速道路に乗せて、そのまま西九州自動車道路に連絡して前原インターを降りた。左右に広がる前原ののどかな田園地帯はかつて千秋といつか住んでみたいと話していたあこがれの地だった。そこを過ぎると二丈町の海が右に見えてくる。秋晴れの太陽に照らされて輝く海は俺たちを歓迎してくれた。助手席で遠田は「天気良くなってよかったー」と何回かつぶやいた。
 途中から二丈・浜玉有料道路に入った。そして吉井インターで降りて山側に上って行った。ここから浮嶽を越えると七山村に出る。かなり急な山道をゆっくりと走らせて中腹あたりに来ると眺望が開けた。二丈の海が見えた。
 「すごーい!海まで見える」
 「霧が多い日に船の上からこの山を見たら霧の中に浮いて見えたから浮嶽っていう名前になったらしい。ほんとかどうか知らんけど」
 「へー、そうなんですか」
 窓を開けてしがみつくように彼女は海を眺めていた。
 吉井インターを降りてから峠を越えるまでゆっくり走ったのに、十五分くらいしかかかっていなかった。ゴルフ場の横を抜け、七山村側に下りて行った。
 「あとどれくらいですか?」
 「この山道を下り終わったら七山村よ。ほら、もう見えて来た」
 「あ、ほんと、一番底って感じですね」
 「ここは小さい村やけど、見所もいろいろあるし、いいお店も多いんよ。さっき言った滝のほかに、樫原湿原っていう湿地帯もあって、珍しい花が咲くんよ。そこもいいし、あと温泉もあるし、キャンプ場もあるし・・・結構楽しめるんよ」
 「へー、そのなんとかしつげん?そこも行きたいです」
 「そこはまた今度にしよう。サギソウはもう咲いてないやろうけん」
 「サギソウ?」
 「うん。白いきれいな花。確かそこでしか見れんちゃないかな?真夏に咲くけんね。もうないね」
 「じゃぁ、来年の夏に来ましょう。サギソウ見に。ね?」
 「俺が覚えてればね」
 「大丈夫。私が絶対覚えてますもん」
 「先のことはどうなるかわからんよ」
 「いいえ。先のことは自分で決めるんです」
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