えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第21回

 熊本の美術展があった翌日、会社で瀬戸山課長に「ちょっと会議室に来てくれ」と呼ばれた。俺は書きかけの原稿をそのままに、瀬戸山課長に続いて会議室に入った。課長は椅子に座るとすぐに切り出してきた。
 「今週末の日曜日なんか予定ある?」
 「日曜日ですか・・・はい、ちょっと先約が・・・」
 ないと言ってもよかったが、前日の遠田の喜ぶ姿がよぎって言えなかった。
 「そうか・・・一時間くらいでいいんやけどね」
 「何があるんですか?」
 「天神プランニングの十周年記念パーティーがあるんよ。俺招待状もらったんやけど、どうしても行けんのよ。かわりに行ってもらえんかなと思って。義理を通すだけやけん、顔出すだけでいいんやけど、だめかいな?」
 「高尾じゃだめなんですか?」
 「高尾は日曜も撮影があるんよ」
 「何時からですか?」
 「夕方六時から十二時くらいまでだらだらやっとるって。立食やけん、ちょっと顔出して社長にお祝い言ってから帰ればいいんやけど」
 「それくらいでいいなら、大丈夫と思います」
 「お、助かる。ありがとう」
 「天神プランニングの社長はなんていう人でしたっけ?」
 「富田社長。会ったことはあるよね?」
 「あります。まだ三十代のやり手ですよね?」
 「そうそう。二十代の頃に独立して、あっという間に福岡じゃ有名な出版社にしてしまったやり手よ。最近はなんかえらいきれいな秘書を雇ったらしい。ついでに見てきたらいい」
 「じゃぁ適当にちょこっと顔出して挨拶してきます」
 「ありがとう。先方にも俺のかわりにお前が行くこと言っとくけん」
 遠田とのデートは夕方で切り上げて、彼女を送った後帰り道にパーティーに寄ればいいだろうと思った。
 「ところで、昨日はどうやった?」
 課長は一つ課題が片付いたというほっとした表情で、話題を変えた。
 「よかったですよ。九州のお寺にある仏像もなかなかすごいもんですね」
 「ほぉ」
 「学芸員さんに聞いたら、やっぱり門外不出が多くて出展を承諾してもらうのが一番大変やったみたいですよ」
 「なんで嫌がるとかいな?拝む対象がないと困るけんかな?」
 「それもあるでしょうけど、一番の理由は要するに搬出・搬入の時に傷をつけられるかもしれんからっていうことらしいですよ」
 「なるほどね」
 「千如寺の時も搬出はおおごとでしたからね」
 「保険には入っとるんやろ?」
 「入ってますけど、そういう問題でもないですしね。重要文化財ですし、宗教的なシンボルですからね」
 「そうやろうね。何百年も代々守ってきたものに傷をつけてしまったっていうのは先人に申し訳ないもんな。そういう搬出・搬入の時に傷がついてしまったっていうことあるんやろうか?」
 「何年か前に一度あったそうですよ」
 「千如寺で?」
 「ええ。二天像じゃなくてなんか別の仏像で。ほんのちょっとの傷やったそうですけど」
 「今回は全く問題なし?」
 「搬出と設置は問題なしです。後は美術展が終わって、千如寺に戻す時が問題ですね。また一日仕事ですよ」
 「運送会社も大変やな」
 「ですね。美術品専門スタッフですから慣れてはいるでしょうけどね。しかしあんなに毎回緊張する仕事してたら神経持ちませんね」
 「ほんとやな。肉体労働と神経労働と両方するわけやから、疲れるよね」
 課長は背伸びしながら、「あー俺はデスクワークだけでいいけんよかった・・・」と独り言のように言った。
 「仕事戻っていいですか?」
 俺がそう言って席を立つと課長は、
 「お、いいよ。じゃ日曜よろしくね」
 と言った。そして「わかりました」と言って会議室から出ようとした俺の背中に、「美人秘書もよぉーっと見て来て」と瀬戸山課長は浮いた声をかけた。
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