えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第20回

 帰りの車の中で、高尾は後部座席で気持ち良さそうに眠っていた。一番活躍したから疲れはてた様子だった。遠田は助手席で何を見るともなしに窓外を眺めていた。
 俺は運転しながら美術展の様子をどんな記事にするか考えていたが、ふと思い出したように遠田が言った。
 「次の千如寺のイベントはなんですか?」
 「十月には大きなイベントはないよ。十一月になったら紅葉シーズンであの大楓が真っ赤になるけん、その頃に撮影に行くよ」
 「その次は?」
 「あとは、年末年始やね。大晦日の除夜の鐘から翌朝の初詣のようすまで取材するけど、これは俺だけでいいよ」
 「どうしてですか?」
 「みんな休みやけんたい」
 「内田さんは休まないんですか?」
 「俺はどうせ暇やし」
 「高尾さんは?」
 「高尾も休ませるよ。大した写真は必要ないけん、俺が自分で撮るよ」
 「大変ですね。お寺に泊まるんですか?」
 「いや、前原のビジネスホテルに泊まると思う。大晦日の除夜の鐘まで取材してから引揚げて、翌朝早くにまた戻ってくるつもり。ホテルには多分三時間くらいしかおらんかもね」
 「一人で大丈夫ですか?」
 「大丈夫、大丈夫」
 彼女はここで少し間を置いて、後部座席に眠っている高尾をちらっと見た後、改まった表情になって言った。
 「内田さん、ドライブはいつ連れてってくれるんですか?」
 「え?これじゃだめ?熊本往復ドライブ」
 「ダメですよ!これ仕事じゃないですか」
 頬を膨らませる彼女の表情はかわいかった。
 「冗談たい。えーと、そうやね、日曜しかないけど、俺いろいろ家事があるけんねぇ」
 「土曜日だけで終わらないんですか?」
 「いや、終わらんこともないけど・・・」
 「なんとかがんばって土曜日だけでいろいろ終わらせて下さい。今度の日曜日に行きましょうよ」
 助手席から迫るような勢いだった。もうここは観念しないとだめかなと俺もあきらめることにした。
 「わかったわかった。日曜はなんとか空けるようにするけん」
 「やった。絶対ですよ?」
 「うん」
 「ドタキャンは受け付けませんからね」
 「うん」
 彼女は両手のこぶしをぎゅっと握って小さなガッツポーズをつくった。その様子が旅行に連れて行ってもらうことが決まった子どもみたいでかわいかった。そして何かのノルマを達成したような満足した表情になった。
 しょうがない、一回連れて行けばそれで義理は果たすわけだから早く済ませてしまうほうがいいだろうと思った。
 太宰府インターから都市高速に入って、百道インターで下りた。遠田を自宅近くまで送り届けた。彼女は車を降りながら言った。
 「遠回りなのにすいません」
 「いいよ。どうせ高尾も送っていくし」
 「じゃ、約束忘れないで下さいね」
 「はいはい」
 彼女は満面の笑みでドアを閉めて手を振っていた。俺は車を高尾の自宅の方へ走らせた。遠田が車を降りる時の音で高尾は目を覚ましたようだった。
 「あ、もう着いた?」
 「よぉ寝とったね」
 「んーさすがに疲れたばい」
 「お疲れさん」
 伸びをしている体を急に止めて、高尾は後部座席から乗り出してきた。
 「お前、遠田とドライブすると?」
 「ありゃ、起きとったんか?」
 「いや、ちょうどその話の時だけ聞いとった。ドライブすると?」
 「せざるを得んね」
 「遠田は自分から誘いよったね。やっぱりね・・・」
 「なんがやっぱり?」
 「こないだ飲みに行った時もそうやったけど、あいつお前のこと好きよ。多分・・・っていうか間違いないと思う」
「どうかいな・・・」
 「俺のことは気にせんでいいけんな、俺はもう撤退したけん、お前、思う存分行け!」
 「今まだそんな気分になれんけん、一回ドライブするだけにしとく」
 「うわーもったいない・・・」
 高尾は大げさなしぐさでのけぞって後部座席に背をもたせかけた。
 そんな気分になれない?そんな気分てなんだろう?また人を好きになる気分?そんなのはもう想像すらできなかった。
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