えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第19回

 二天像搬出から数日後、熊本の美術館で「九州の仏教芸術展」が開催された。例によって俺たち三人は取材に出かけた。初日だけは写真撮影OKということで、マスコミ関係者もかなり混じっていた。
 テープカットの際に、千如寺の北村住職も挨拶をした。そして熊本県知事をはじめ、数名の来賓の手によってテープカットされると、学芸員の説明が始まった。
 初日の開館前の時間に中を見れるのは関係者と来賓、そして俺たちマスコミだけ。しかも学芸員が直接説明してくれるのもこの時だけ。非常に貴重な機会なので俺は学芸員の説明を録音したいくらいだった。
 高尾は他のカメラマンとのポジション争いに忙しかった。限られた時間なのでひとつひとつ丁寧に撮っていくことはできない。これぞというのを選んで、すぐにポジションを決めて数枚づつ撮っていく。無駄口ひとつたたかないで走り回る高尾の真剣な姿は遠田には珍しく映ったようだった。
 俺はとにかくカタログを片手に学芸員の話のポイントを聞き漏らすまいと必死だった。展示品の番号を書いて、それに関するポイントだけをメモしていく。学芸員の人は何も見ないですらすらと説明した。大したもんだと思った。
 マナーをわきまえないで大声で話す輩もいて説明が聞こえない時もあったので、なるべく学芸員の近くにいるようにした。
一通り説明が終わって、ふと見ると隣にいたはずの遠田がいなかった。また戻って探してみると千如寺が出展した二天像の前で北村住職と話していた。
二天像は損傷もなく無事に設置されていた。千如寺で見るのとはまた違った感じがした。久しぶりに外に出て伸び伸びしているかのように、いつもより動きが明るく感じた。会場内には他にも持国天と多聞天の像が出展されていたが、比べてみるとかなり違うのが面白かった。時代や地方で作風が異なるらしい。職人の腕ももちろんあるだろう。作風の流行というものもあったらしい。当時でいう都会の京都・奈良と、遠く離れた田舎の九州とでは、流行の伝達も遅かったことだろう。
俺と遠田は先にロビーに出て高尾が戻るのを待った。十五分ほど遅れて、疲れた顔の高尾が会場から出てきた。
「やっと終わった・・・」
「お疲れさまです!」
遠田が高尾のカメラを受け取った。
「撮りたいものが多すぎ!どれもすごいけん。俺ここに一日おっても飽きんよ」
高尾はいい被写体に出会った時の満たされたカメラマンの表情になっていた。
「もうちょっと開館まで時間あるよ。まだ撮る?」
俺が言うと高尾は会場のほうを見て、「どうするかな・・・」とつぶやいていたが、すぐに、
「よし、もうちょっと撮ってくる。待っとって」
「いいよ。遠田とそのへん散歩してくる。三十分くらいしたらここに戻ってくるけん」
「よっしゃ。じゃ行ってくる」
高尾はまた遠田からカメラを受け取ると会場に戻って行った。
「じゃ、ちょっと外に行ってみるか」
と俺は遠田を連れて美術館の外に出た。心なしか遠田の表情が明るかった。俺たちは建物の横の通用口から表に出た。一面の芝生がまぶしかった。木陰を抜けてくる風が心地よかった。
「風は気持ちいいけど、日差しはまだ強いね」
「そうですね。この時期って意外と日焼けするんですよね」
「そう言うよね。この時期って運動会があるやんか。運動会の時って日焼けするもんね」
「内田さんの田舎も秋に運動会でした?」
「うん」
「私が行った小学校もそうでした。最近は春にするとこが多いですよね」
「そうやね」
芝生の感触がいいので思わず歩調がゆるくなった。遠田は木陰を選ぶように歩いていた。美術館のまわりは公園になっていたが、一面の芝生を囲むように木立が並んで、中央部分には木陰がなかった。俺たちは公園のふちをたどるように歩いた。
先を歩く遠田が時々振り返って微笑んだ。散歩が嬉しい様子だった。どうして女性は散歩が好きなのだろう?千秋もそうだった。よく二人で自宅の近くを散歩した。ただ話しをして歩くだけのこの行為に、女性は何かを得ているのであろう。
遠田の後姿を見て気付いた。彼女は少し髪を切っていた。
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