えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第15回

 千秋が天に召されて以来、休日が来るのもつらいものがあった。俺と千秋は休みのたびに出かけていた。ドライブしたり、山に登ったり、天神をブラついたり、映画を見たり。それが今では掃除、洗濯、買い物、アイロン・・・家事に追われた。うちの会社は土日が休みだったが、そのうちの一日は家事で追われた。面倒くさいがしょうがなかった。何もしないでいると今度は想い出が襲ってきた。これが結構きつかった。家のどこかに千秋がいて、なにかごそごそと家事をやっているような錯覚に陥ることがたびたびあった。そしてなにか用事を頼もうと千秋を呼びそうになってふっと気付く。つらいのはその次の瞬間だ。津波のように悲しみが押し寄せてきて、すぐにぽろぽろと涙が落ちた。本当に簡単に涙が出てくるようになっていた。
 朝もつらい。夜もつらい。休日もつらい。平日の昼間の仕事中だけ、なんとか普通に生きられる。こんな状態をいつまで続けないといけないのだろうか?何度も浮かぶ疑問に答えを見出せず、ただため息ばかりついていた。
 日曜日。もろもろの家事を終えて、本でも読もうと二階の本棚の前に立った時にふと思い出した。遠田に横光利一の本を貸す約束をしていたことを。俺は横光利一の全集をとって、忘れないように机の上に置いた。そして自分の読む本を持って一階の居間のソファに腰をおろしたところで、携帯電話がなった。高尾からだった。
 「おう、どうやった?」
 「うん・・・」
 「あ、返事が芳しくないね。あんまり盛り上がらんかった?」
 「いや、べつにそういうわけじゃないけど・・・」
 「そうなん?じゃよかったやん」
 「いやいや、よくないんよ。どうもね、脈はないね、俺は下りるよ。撤退撤退」
 高尾の声には少しはにかんだような笑いが混じっていた。
 「撤退するけん、内田が行け」
 「なんで脈がないてわかると?」
 「夕べの俺たちの会話の三分のニはお前の話題やったよ」
 心の中を冷たいものが触れていった。
 「・・・千秋のことか?」
 「ん・・・それもあるけど、とにかくお前のことばっかり質問されたよ」
 「遠田は千秋の事故のこととか全部知っとると?」
 「うん。俺が説明するまでもなく、ほとんど瀬戸山課長に聞いて知っとったよ。多分課長は遠田がお前にいらん質問とかせんように先手を打ったんやろうと思うけどね」
 「遠田は俺の私生活のこと今まで全然聞かんかったもんね。そうか。やっぱりね。何か言いよった?」
 「かわいそう、かわいそうって。泣きよったよ。居酒屋で二人だけで飲みよる時に泣かれたけん、ちょっとあせったよ。ははは」
 高尾の笑い声は乾いていた。
 「俺が思うに、遠田はお前のことが好きなんやろうね。そんな感じがするよ。ただ単に同情を寄せてるっちゅうわけじゃなさそうよ」
 「そうか・・・」
 「まぁ、多分、まだそういう気持ちにはなれんやろうけどさ、誰かそばにおったほうがいいんやないか?」
 「うん・・・」
 「ま、俺の報告はそういうことよ。今週は千如寺いつ行くと?」
 「木曜日に二天像の搬出があるけん」
 「了解。朝から行くと?」
 「うん。十時には先方に入るよ。照明とか全部持って来て」
 「あいよ。そんじゃね」
 「うん」
 いつもなら高尾の陽気な声を聞くと元気をもらうのに、その時は電話を切った後に複雑な思いが残った。遠田が俺のことを聞いて泣いていたというのをどう受け取っていいのか?知り合ってまだ一ヵ月にもならないのに、身の上話を聞いて泣くほど悲しくなるものか?ただ繊細なだけか?
 どうでもいいことだと思った。自分の面倒をみるので精一杯だった。俺は思考を晩飯のおかずに切り替えた。何にしようか?自分のまずい料理を食べるのにはうんざりしていた。自分のために作った料理に愛は入っていない。まずいのはそのせいだろうと思った。
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