えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第12回

 打ち合わせの後、観音堂に上がろうとした時に住職に来客があったので、俺と遠田の二人だけで長い階段を登って観音堂に入った。あの圧倒的な存在感の「十一面千手千眼観世音菩薩」は今日も俺たちを黙って見下ろしていた。
 どうも遠田の観音像を見上げる視線はルーブル美術館の絵画を見る人のそれだった。
 「これってどういうしくみなんでしょうね?」
 「組み立て式よ。腕とか首とか、それぞれはずれるようになっとるよ。確か昭和三十年代くらいに先代の住職が解体修理されたんよ。檀家さんや仏師さんもたくさん参加して、一大イベントみたいになったらしい。当時の新聞に掲載されたらしいよ。確か和尚さん今もその切抜き持っとるよ」
 彼女は首が痛くならないかと思うくらい一生懸命見上げていた。
 「この仏像は完璧に重心がとられてるんよ。この大きさで何も支えなしで完璧にバランスがとれてるんよ。すごいよね、昔の日本人の技術は」
 「この二本足だけで立ってるんですか?」
 「そうだよ。どこにも固定されてないよ」
 「すごい・・・」
 「観音像だけじゃないよ。このお寺全体の建築のすごさは何年か前に地震があった時に証明されたよ。あんなに揺れたのに木造の部分は全く被害なしよ。木がきしむものすごい音がしたらしいけどね。どこもなんともなかったらしい。地震の揺れとかも計算されてるんよ。今時の建築の耐久年数って一戸建でせいぜい三十年よ。それがこっちは何百年やけんね」
 「昔の日本人ができたなら、今でもできそうですけどね」
 「真剣にやればできるやろう。まぁ人材は少ないやろうけど。要するに効率が悪いからせんのよ。今では何でも判断基準は金やけんね。儲からないならやらない。たとえ大事なことでも、未来の日本のためになることでも、儲からないならやらない。それが今の日本人よ。だからこういう素晴らしい仕事をする人は今の日本では天然記念物的に少ないと思うよ」
 遠田にも何か共感するものがあったのか、うなずきながら聞いていた。俺は遠田をうながして観音堂を出た。香の匂いを払うかのように爽やかな風が頬をなでた。
 「あ、内田さんいらっしゃい」
 修行中の僧侶とすれ違いざま声をかけられたので振り向くと間須さんだった。ひょうきんな性格でいつも周りを笑わせる間須さんは千如寺の人気者だった。参詣者への寺院内の案内も間須さんが当番の時は笑いがたえなかった。俺も間須さんとは会うたびにからかいあう仲だった。
 「なんだ間須さんか」
 「なんだとか言うし。失礼な」
 「ちゃんと仕事してますか?」
 「してますよ。まったく。私ほど真剣に働いてる人間いませんよ」
 「へー」
 「今日はまたなんですか?きれいなお嬢さんを連れて。私が一生懸命働いてる時にデートですか?」
 「デートです」
 「げ!認めるし!」
 俺たちのやりとりを笑いながら見ていた遠田が割って入った。
 「初めまして。遠田といいます」
 「あ、どうも。間須です」
 「今月からうちに入社した新人ですよ。私のアシスタントです」
 「うわー、こんなアシスタントなら仕事もはかどりますね」
 「はかどりますよ」
 「あ、畜生、また認めるし!」
 小柄な間須さんが袈裟を着て身振り手振りで話す様子が滑稽なので、周りにいる参詣者の人たちもこっちを見て笑っていた。
 「ほら、間須さん笑われてますよ。そこにいるだけで笑いがとれるっていうのも一つの才能ですよ」
 「人をコメディアンみたいに!遠田さん、こんな人と一緒にいたらいじめられるだけですよ。気をつけて下さい」
 「わかりました」
 彼女が笑いながら答えると、「あぁ忙しい忙しい」とつぶやきながら間須さんはそそくさと去っていった。その後姿もどこか滑稽だった。
 「おもしろい人ですね」
 「千如寺専属のコメディアンやね」
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