えしぇ蔵小説集

福岡ESEグルメのえしぇ蔵の小説集です。それなりにがんばってるつもりです。

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千の灯火(ともしび) 第7回

 いつも仕事は六時に終わった。スケジュールが逼迫しない限り残業はしなかった。、残業代は出ないのでほとんどの社員は定時で帰った。また会社もそうするように奨励していた。思えばいい会社に入ったもんだ。地方の中小企業なんてサービス残業も義務のところが多かったから。
 会社が大手門にあるので地下鉄通勤をする社員が多かった。赤坂駅と大濠公園駅のちょうど中間くらいなのでどちらからも乗れた。高尾や瀬戸山課長は赤坂駅から乗る。だが週に一回か二回は赤坂駅を通り越して大名の飲み屋街に入って行った。俺もかつてはそのうちの一人だったが、千秋のことがあって以来、すぐに帰るようにしていた。車通勤なので酒が飲めないというのもあるが、飲みに行くと必ず慰められるし、涙もろくなるからだんだん酒の席から遠ざかるようになっていった。
遠田の歓迎会が彼女が入社して最初の週末にあったがそれも行かなかった。
 雷山千如寺に挨拶に行ってからとにかく資料集めに走った。その日も帰りに本屋に寄る予定にしていた。駐車場で車に乗ろうとしたところに遠田が近づいて来た。
 「内田さん、もう帰るんですか?」
 「帰るよ。ちょっと本屋に寄ってからね」
 「私も一緒に行っていいですか?本屋に行きたいんで」
 「家どこだっけ?」
 「西新です」
 「じゃぁ反対やん」
 自分で言っておきながらちょっと冷たかったかなと思った。
 「・・・どこの本屋に行くんですか?」
 「博多駅の」
 「じゃぁ行きましょう。私地下鉄で帰りますから」
 「いいよ」
 方向が違うのに一緒に行きたがるのは何か個人的に聞きたいことか話したいことがあるのだろうと推測できた。千秋のことじゃなければいいがと思った。
 「わー、かっこいい。これなんていう車ですか?」
 「セリカだよ」
 「高いんでしょ?」
 「いや、中古だよ」
 「あ、マニュアルですか?」
 「そう。今時珍しいやろ?だいぶ探したよ」
 「車好きなんですね」
 「うん。もう今は車は移動手段になってしまったけど、俺はやっぱ運転を楽しみたいんよね。だけん、マニュアルなんよ」
 「これ速いですか?」
 「速いよ」
 「スポーツカーにしては乗り心地がいいですね」
 「シートがいいけんね」
 「快適ですね。わー、目線が低い。すごーい」
 「すごーいって、こないだ千如寺行った時に乗ったろうもん」
 「あの時は会社の車でしたよ。覚えてないんですか?」
 「え?あ、そうか」
 「これで千如寺さん行ったならもっと私はしゃいでますよ」
 運転しているから彼女の表情は見ていなかったが、声がすごく楽しそうに車内に響いていた。
 「そしたら今度ドライブにでも行くか?」
 「ほんとですか!?」
 俺は思わず出た自分の言葉に焦った。
 「行きましょう!いつ行きます?」
 つい人を喜ばせることを口走ってしまうのは俺の悪い癖だった。
 「でもいく暇がないねぇ。いろいろ調べ物もあるし・・・」
 俺は慌てて防衛線を引いたが、
 「私は助手ですよ?一緒に手伝いますからドライブもしましょうよ」
 簡単に突破された。
 「うん・・・じゃ行くか・・・」
 諦めるよりしょうがなかった。
 「今度の日曜はどうですか?空いてます?」
 「日曜か・・・どうやったかいな?」
 何も予定はなかったが、 「あとでスケジュール調べてメールするけん」とひとまず問題を先送りした。
 「わかりました。じゃあメール待ってますね!」
 メールするつもりはさらさらなかった。
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